動物病院で獣医師として働いているというと、ほぼ確実に「忙しいですよね」と返ってきます。
確かに、予防シーズンは普段来院の機会がない方も来院されるので診察件数が増えるし、検査や処置に時間がかかるものも多くあります。
獣医師は忙しいもの、と私自身も覚悟してこの職業を選びました。
ただ現場にいると、こんな感覚を覚えることがあります。
「今日そんなに件数多く来院されていないのに、なんか忙しかった」
動物病院の忙しさは診察件数だけでは説明できない。
これは、長く現場で働く中で何度も感じてきたことです。
今回は、私自身獣医師として動物病院の現場で見てきた「忙しさ」について、病院の設備や規模などの診療体制ではなく構造と環境から考えていきます。
目次
増え続ける「モノ」と「情報」が、現場に与える影響
犬猫の診療には医療機器や器材をはじめ、多くの物を扱います。
検査機器、消耗品、薬剤、備品などなど。
使用頻度が高いものもあれば、「たまにしか使わないけれど、いざというとき必要なもの」も多いです。
開業時や導入時には、それぞれ「必要なときに使いやすいように」と考えて配置しているはずです。

しかし、獣医療の現場は日々進歩していきます。
新しい検査機器や治療法が入り、それに伴って物も情報も、少しずつ、確実に増えていきます。
残るもの、新しく加わるもの。
気づけば、扱う物の種類も量も、当初の想定を超えている。
その変化に、配置や管理の仕組みが追いつかなくなることは、決して珍しくありません。
結果として
「あれ、どこにしまったっけ?」
「前はここにあった気がするんだけど…」
と記憶を頼りに探す場面が増えていきます。
ひとつひとつは些細でも、その積み重ねが現場の流れを止めていきます。
本当は、新しく物や情報が入るたびに、定位置や在庫管理を見直したい。
そう思っていても、日々の診療に追われる中で、まとまった時間を取るのは簡単ではありません。
さらに、
「これ、こんなに必要だろうか」
「ここ、少し動きにくいな」
と感じていても、忙しさの中で不自由さに慣れてしまったり、あるいは、スタッフが声に出しづらかったりすることもあります。
こうして、誰かが困っているわけではないけれど、確実に余裕を奪っていく状態が、いつの間にか当たり前になっていくのです。
「片づけ=一度整える」では、現場は楽にならない
ここまで読んで、
「じゃあ、時間をつくって一度まとめて片づければいいのか」
そう感じた方もいるかもしれません。
けれど、動物病院の現場では、それだけでは解消しないことがほとんどです。
なぜなら、動物病院で扱うモノや情報は一度整えたら終わり、という性質のものではないからです。
新しい器材が入り、治療の選択肢が増え、検査項目や薬剤も更新されていく。
現場は常に変化していて、モノも情報も「増え続ける前提」にあります。
その中で、
・一度きれいにする
・とりあえず空いている場所に収める
・今のメンバーで何とか回す
という対応をしても、数ヶ月、あるいは数年後には同じような「忙しさ」に戻ってしまうことが少なくありません。
必要なのは「頑張らなくても回る状態」
忙しさを生んでいるのは、片づけができていないことそのものではなく、
- 毎回、置き場所を考えている
- 人によってやり方が違う
- 判断を特定の人が抱え込んでいる
といった、考え続けないと成り立たない状態です。
現場が本当に楽になるのは、「きれいに整っている」ときではなく、考えなくても自然に動ける状態がつくられたとき。
どこに何があるかを誰かの記憶や経験に頼らなくても分かる。
初めてその場所に入った人でも、大きく迷わず動ける。
そうした状態は、気合や努力ではなく、環境や配置、動線の考え方によって支えられます。
片づけで動物病院の忙しさを環境や構造として捉えてみる
動物病院での診療が忙しいとき、つい「人が足りない」「誰かが大変そう」と人に原因を求めてしまいがちです。
でも、視点を変えて環境や構造として捉えてみると、
- 人が頑張りすぎている場所
- 無意識に負担が集中している動き
- しくみがないまま続いている習慣
が、見えてくることがあります。
片づけを「整理整頓」や「美しくすること」と捉えるのではなく、現場が無理をしなくて済むしくみづくりとして考える。
そうすると、誰かを責める必要も、自分を追い込む必要もなくなります。
現場を知っている立場だから、できる関わり方
私は、獣医師として動物病院の現場に立ってきました。
忙しさが当たり前で、立ち止まる余裕がないことも、よく分かっています。
だからこそ、「こうすべき」「こう変えましょう」と正解を押しつけることはしたくありません。
現場を知っている立場で、いま起きている動きを一緒に眺めて、考えなくていい部分を少しずつ減らしていく。
片づけや動線の見直しは、そのための“目的”ではなく、忙しさの質を変えるための手段のひとつです。
現場を知っている立場だからこそ、理想論ではなく、
「今の体制で、どこまでなら現実的か」
というところから関わることができると考えています。

まとめ
動物病院の忙しさは、診察件数や人手の問題だけで語れるものではありません。
- 増え続けるモノや情報
- 考え続けなければ回らない配置や動線
- 不自由さに慣れてしまう現場の空気
それらが重なった結果として、「理由のはっきりしない忙しさ」が生まれていることも多いのです。
忙しい=うまくいっていない、ではありません。
むしろ、真剣に診療に向き合っているからこそ起きる状態でもあります。
だからこそ、環境や構造を少し見直してみる、という選択肢があってもいい。
そんな視点をここに残しておきたいと思います。
また、現場を知っている獣医師と思考の整理から始める片づけのプロであるライフオーガナイザーとしての立場で、動物病院での物の配置や動線を一緒に考える関わり方もできます。
具体的な方法や内容については、こちらにまとめています。
※「依頼する」と決めていなくても大丈夫です。
※ 状況を整理するところから、ご相談いただけます。

獣医師・ライフオーガナイザー®。犬猫と人が安心して暮らせる住まいを整える専門家。獣医師としての行動学の知見を活かし、暮らしと空間の「しくみづくり」をサポートしています。江南市を拠点に、訪問・オンラインで対応中。
公式サイト:ハナサカライフ
